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『化け物』シリーズ

素晴らし過ぎて、すでに次回作を渇望しています…
一作目が『化け物心中』(文庫が出たばかり!)で、二作目が『化け物手本』です。

二作目が新刊コーナーに並んでおり、表紙をみて「え、紗久楽さわさん…?」と思って見たら、当たりでした。それであらすじを見たら、女形が登場するじゃないですか…(レジに向かう)
赤江瀑さん、杉本苑子さんの『傾く滝』、皆川博子さんの『花闇』などの女形がメインで登場する小説が好きなので、絶対に読みたかったのです。トップの女形の、舞台や贔屓客に対する思い入れや、女性を演じるための拘り、歌舞伎の舞台裏の愛憎…などがいつも胸に来るのですが、本作もそれが詰まっていて、プラスでミステリ小説のような謎解き要素もありで、ページをめくる手が止まりませんでした。

贔屓客によって両足を切り落とすことになった元女形・魚之助(ととのすけ)は、鳥屋の青年・藤九郎をなぜか毎回呼びつけて、おぶらせる。実は魚之助が藤九郎を好きになった理由が明かされるのですが、それが…本当に素晴らしくて泣きました。
さらに、一巻の最後で「自分は男か女か」と問う魚之助に対しての藤九郎の答え…100点満点中、五十億点でこれまた号泣。
この二人の関係性が素晴らしく泣けるので、ぜひ読んでいただきたいです…!!

二巻になるとさらに関係性が変化し、それも胸が苦しくなります。常に気を張り女形として完璧であろうとした魚之助は、藤九郎と出会って自分は変わってしまったと嘆きます。人間らしくなるのが怖い、藤九郎の優しさが怖いと…つらい…

人外の恋や歌舞伎座内恋愛・遊郭の幼馴染など最高なポイントが山ほどあるのですが、ネタバレになるのでとりあえず読んでいただきたい…
時代小説を読む機会があまりない方でも大丈夫かと思います。セリフ回しや文章が少し特徴的ですが、それが軽快さになって良いと個人的に感じます。人物一覧と歌舞伎の格付けが巻頭に掲載されているのは有難いです。

一巻の表紙をめくると、魚之助が握っているものが分かるのですが、二巻と比べると色が?!となり、さわさんのメッセージを感じます。原作の落とし込みがさすが過ぎる…!!

美神たちの黄泉

短編集です。

美神たちの黄泉

歌舞伎もの。
ヌードモデルの健祐は、新聞記事でかつての演劇同好会のメンバーであった山名湄夫の名前を発見する。
湄夫は歌舞伎の家系の出で…

ヌードモデルの健祐、どんなポーズも要求されたらやるのですが、”本番”はさせてくれません。モデルなので。
そのため、リピート客が多いそうな。なんて悪魔なんや。好き。

万葉の甕

歌舞伎もの。
女形の雪太郎の彫像の首が、万葉庭園から発見された。
歌舞伎座に長年役者としている千次は、万葉集に詳しいが繋がりは…?

黒潮の魔軍

めちゃくちゃ好きです…

武信は、代々医者の家系の次男で、将来を決められ成績も首席以外許されなかった。
そんな生活に嫌気がさし、両親の反発を無視し、首席も争わずアルバイトも始めるように。

夏休みに始めたホテルのボーイのアルバイト中、体勢を崩しプールに落ちてしまい、体を動かそうとすると激痛が走る。
ホテルの屈強なマッサージ師がやってきて、濡れた服を全部脱がせ、マッサージを始める。
最初は痛みに叫んだが、「力を抜いて」とマッサージ師に声をかけられ、臀部をほぐされるうちに、快感に変わっていく。

それから武信は、マッサージ師が目の前で女を抱く夢を見るようになり…

草薙剣は沈んだ

平凡な男性が、草薙剣に囚われ精神を病んでしまう話。

カツオノエボシ獄

毒海月・カツオノエボシの群れの中に、男が投げ入れられ毒死した。
その男は、両親もまたカツオノエボシで亡くした大浜朔であった…

遠臣たちの翼

すべて世阿弥の名前が出てくる短編五作です。
いずれも、世阿弥に影響を受けた人物が登場します。
話の方向性はバラバラですが、①⑤は繋がっています。

①元清五衰:世阿弥と同じ「元清」という名前の俳優が、自分の理想の生き方を追い求める。付き添いの男が献身的で泣ける。
②踊れ我が夜:ダンサーの泰朝は、大汐のことを世阿弥の生まれ変わりのように思い尊敬していた。あることをきっかけに、泰朝は大汐の家を訪れなくなる。大汐の死後、突然泰朝が姿を現し…
③春睡る城:生き別れの兄弟のお話。泣けました…好きです。
④しぐれ紅雪:歌舞伎の立役と女形にそれぞれ肩入れする女性たちの話。歌舞伎の立役と女形は、舞台では息ぴったりだが、舞台を降りると犬猿の仲のようで…
⑤日輪の濁り:一作目「元清五衰」のその後のお話。

ニジンスキーの手

★ニジンスキーの手

風間と弓村の関係性がお耽美。孤児院で一緒だった仲で、弓村は才能を買われて海外へ、風間は売れない脚本家。
「俺を……また一人にしてしまいやがった!」という弓村のセリフがすべて…

★獣林寺妖変

歌舞伎の女形のお話で大好きです。

崇夫(たかお)と努(つとむ)は、大学卒業後に歌舞伎界入りした「カレッジ俳優」。世襲の強い歌舞伎界で、肩を寄せるように切磋琢磨する。
崇夫は天才女形・乙丸屋に、憧れを超えて執着を覚える。乙丸屋が見ている歌舞伎の神髄に触れるため、乙丸屋と噂されている男に片っ端から近付き、関係を持つように。
努はそんな崇夫が見ていられず、自分の楽屋によく顔を出していた、乙丸屋の後援会の幹事である男(K大法医学助教)に、崇夫を救ってやってくれと頼む。目論見通り崇夫はこの男以外とは関係を持たず落ち着くのだが…

…このね、崇夫くんは男に抱かれる間「乙丸屋は抱かれるときどんな感じなの」と聞いちゃうんですよ。やばない??
ですが、崇夫くんを抱くK大法医学助教の本命は努くんの方なんです。楽屋に通ってたんだし。でも、努くんは男色趣味じゃない…
ただ、大好きな努くんの頼みであれば、親友の崇夫くんの恋人を演じるのもやぶさかでない。やばない???

いろいろあって、努くんはK大法医学助教に抱かれることになるんですけど、その時の助教が最高なんです…!!
「昔から、キミの方とこうなりたかった」と言い、真綿のように努くんを抱きかかえるんです…は~~~~~かっこいい~~~

K大法医学助教の片思いを思うとつらくて、毎日その妄想で白飯が美味いです。

★禽獣の門

綪(あかね)は、夫でシテ方能家・春睦が、一緒に旅行に行った際に人が変わってしまったと嘆く。
漁師町の若者と交わってから…

漁師町モチーフがすでにお耽美なんですけど、ド直球で若衆旅館あったり、青年時代を男だけで過ごしたり…もうすごい。
春睦と後見人の雪政の関係性もグッときます。

★殺し蜜狂い蜜

精神科医の視点から見た、二人の男の奇妙な関係性の話。
奪い合うことでしか繋がれない幼なじみの関係性が最高です…
あと特殊性癖がスゴイ。

★恋怨に候て

狂言師・鶴屋南北の往生について、弟子の視点で語られる形式。
いろいろ因縁があることが少しずつ分かっていきます…すこし切ない。

少年ミステリー倶楽部

●村山槐多「二少年図」※絵画:乱歩が所有していたとされる、二人の少年を描いた絵。
●江戸川乱歩「槐多『二少年図』」:乱歩先生が槐多最高!!と褒め称える。
●森村誠一「魔少年」:母親視点で書かれる、小4息子の同級生(ガキ大将)が恐ろしいって話。この恐ろしい子が「魔少年」かと思いきや…
●南條範夫「誰かが――父を」:主人公の少年は、実父が死んだのは継父のせいだと考え、復讐を企てるが…。ラストまで読むと、やるせなさで悶え苦しみます。
●戸板康二「美少年の死」:歌舞伎俳優・中村雅楽シリーズの一作のようです。歌舞伎の美少年子役が何者かに殺されてしまうのですが、その殺人動機が切なくて…
●太田忠司「奇妙な等式」:中学生探偵・狩野俊介シリーズの一作のようです。俊介は孤児で、妻を亡くした探偵・野上が親代わり。このシリーズも気になります…
●大下宇陀児「凧」:神童と呼ばれた天才少年が、実父を殺した犯人を推理する。トリックも驚きだけど、切ない…
●福永武彦「サンタクロースの贈物」:箸休め的なタイミングで福永武彦…!!少し怖いけど、可愛いお話です。
●日影丈吉「かむなぎうた」:実母を亡くし田舎暮らしをする少年と、周りからガキ大将的に恐れられている少年の話。ガキ大将も母親を亡くしており、二人は仲良くしているが…
●日下圭介「鶯を呼ぶ少年」:鶯を呼ぶことができる不思議な少年。その母親は、夫と別れ違う男と体の関係を持っており…(色々込み合っているので、説明が難しいです…泣)
●伴野朗「少年の証言」:銀行のお金が輸送中に盗まれた。自供したのは、花言葉が好きな17歳の少年。犯行動機は金が欲しかったとされている。記者は、その少年にもっと深い動機があるとみて調査を進めると、交友関係や異性関係に問題があったようで…
●土屋隆夫「七歳の告白」:7歳の少年が、警察に事情聴取されているという体裁のお話。実母を亡くして悲しいと言う話から、だんだん事件の全容が分かっていき、こちらもまた切ない。
●仁木悦子「誘拐者たち」:友達のバイクを傷付けてしまい、弁償することになった少年2人。お金持ちのお婆さんのネコを誘拐して、身代金をもらおうとすると…

花闇

美貌と才能に恵まれた女形・澤村田之助の生涯が、弟子の三すじ視点で書かれています。
勝ち気で高慢、美しくも妖しく、どこか寂しげな田之助に、自身も女形である三すじは、愛とも嫉妬ともつかない複雑な心境で仕えます。
その複雑な心境が淡々と綴られています。

田之助は「まだまだこれから」というところで、体が腐ってしまう病に侵されてしまい、四肢を失います。
それでもなお、役者として舞台に立ち続ける姿に泣いてしまいます。

また、そんな田之助に幼い頃から付き従う釻次郎(かんじろう)の忠誠心にも涙します…
釻次郎は途中で声が出なくなってしまい、原因が最後まで不明なのですが、理由が明かされたとき私は膝から崩れ落ちる想いでした。

↓まだ登場人物がたくさんいますが、主なところを…

ここから私の癖ぶっ刺さり話を聞いていただきたいんですけれども…

田之助さんは女遊びが激しいのですが、三すじ曰くどの女も遊びであって本気ではないそうです。
また、贔屓客の男性にも本気じゃない(お金持ちの高僧に小さい頃から抱かれたりしていた)
本気で好きになった人は誰か…

男らしく力もある相政(あいまさ)…!!!
相政は火消し一家と芝居町でいざこざがあった際に仲裁に入ってくれた人です。
その男らしい姿は、幼くして父を亡くした田之助にとって、今まで見たことのない父性を感じたのです。(あくまで三すじの予測ですが)

相政は田之助のパトロンというわけではなく、たんに騒動の仲裁に入ってくれたことから田之助と付き合ってくれているだけで、しかも相政の娘が田之助にお熱のため、田之助は本気に好きな人ができたのに絶対に結ばれることはない関係なのです。「相政に色気を見せると嫌われて、会ってくれなくなってしまう」と思ってか、普段は男にも女にも色気前回の田之助は、相政の前では色気を出さず気持ちも隠しています。
何ですかこの切ない恋は……!!!

相政は接待に度々田之助を呼び寄せるのですが、そのたびに田之助の反応が「恋してる」感じらしく(三すじ談)、もうしんどいです。

同じ実在する歌舞伎役者を題材にした匂い系小説でいうと、杉本苑子さんの「傾く滝」を読んでいて大好きなのですが、こちらの「花闇」は「傾く滝」より少し後の時代設定で、つながりを感じることができてよかったです。
(傾く滝は八代目團十郎が主人公で、花闇は序盤で八代目自害の知らせが入る)

皆川さんは初でしたが、他のもいろいろと読みたいです!

毒と花道(猶本三羽/たしろみや)

全2巻なのですが、もっと読みたかった…
歌舞伎と魔性の美少年なんておいしすぎるし、周りのキャラもみんな立っていてよかったのに…
今から爆売れしてくれないかな…

個人的好きキャラ紹介
・佐伯瑞希(主人公・高1):親を亡くし親戚から蔑まれ、オトコオンナと小さい頃からいじめられ、居場所を無くしていたところを、人気歌舞伎役者の三四六(さんしろう)に拾われる。誰もを惹きつけてしまう美貌の持ち主で、歌舞伎でその個性を開花させる。
・三四六(32):人気歌舞伎役者。大胆不敵で無茶苦茶だが、優しい心の持ち主。
・千歳(高2):歌舞伎役者・生徒会長。初めは瑞希につっかかっていたが、美貌にやられてしまい好きになってしまう。笑
・鏡弥(高1):家が代々人間国宝の歌舞伎役者。三四六を慕っている。瑞希を「顔だけだろ」と突き放すが…

……いや、めちゃくちゃいいな。
とりあえず読んでいただきたいです‼

傾く滝

圧倒的感情爆発度…!!
杉本苑子さんは世阿弥の『華の碑文』で知り、その圧倒的感情描写に魅かれこちらも読んだのですが、さらにすごかった…

八代目団十郎は超絶イケメンで、団十郎がかぶった水や痰(!)などが女性に高値で売れるほどの人気。しかし浪人の宮永先生に救われた日から、宮永先生しか愛せなくなってしまったのです…
そんな宮永先生には人には言えない秘密があって、団十郎を遠ざけようとします。ですが宮永先生も団十郎が好きなので、これがまた切ない…(クソデカため息)

杉本さんの言葉選びや表現の仕方が、私的には耽美で切なくて緻密で、人間の複雑な感情をここまで言語化できるのか…と驚きを隠せません。

ラストシーンは涙なくして読めず、読んだ後も切なくてしばらく放心状態でした。