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デカルコマニア

SFの長篇。架空の地名や動物などが登場します。
時間旅行ととある一族の歴史がテーマなので、年表と家系図を整理しながら読むことをオススメします。
章ごとに時代と語り部が違い、意識して読まないと分からなくなりそうでした…

ですが、後半になると人物たちが繋がっていき面白いです。
この時期の長野さんの作品の複雑さが始まっていると感じました。

男女たちが運命的な出会いを繰り返しますが、ひとりの美少年がかき回すのが長野さんっぽいな~と思います。笑

※以下ネタバレありますので、読了後に見てください※

章立て

①『デカルコマニア』について ソラの説明
②『A』について シリルの説明 →Aはアルク
③『R』について ミロルの説明 →Rはロマン=レモン=ロマネス

ソラとレカが未来の政府から逃れるために、過去で家庭を築く。
レモンは兄弟を取り返すべく、事故にあったふりをして双子のもうひとりを過去に呼びよせた?

登場人物

☆ロマン=レモン 以下、すべて同一人物の記載がある。
①ロマン(ロマネアルド):ナウシストのクラスに転校してきた。13歳。養父と暮らす。顔が整っている。ハニーブロンドの髪、翠緑色(エメラルド)の瞳。オリゾン王の息子という。
②レモン・ドロミュー:24歳。腕の良い金工師。美貌で女癖が悪い。ドロミュー家の養子。王子(王女)に気に入られている。
 →シリルの伯父として登場
③オレオ:レモンの友だち。アメリカの工科大学の院生。
④クリクラム:アイコッドの研究者。外国人。黒髪、黒いメガネ。
⑤ロレ:アモルの家庭教師。20歳くらい。
⑥スワンスオン:旅する芸人の男。オルニカが上手い。髪が真珠色。
⑦ロマネス:奇術師。

☆アルク(アルクノア)・ランダー:囚人。クラブツリー座の役者。24歳。婿養子の祖父の姓を名乗っている。

ナウシスト:鳥類図鑑というあだ名。2つ違いの姉がいる。
ユリス・ドラモンテ:ナウシストの妻。デカルコシステム開発メンバー。
ソラ・ドラモンテ:ナウシストの息子。アルクの父。
レカ・バッサー(先生):ICODのソラの先生で、のち妻になる。アルクの母。
シリル:14歳。オルニカが得意。ソラの孫で、アルクの息子。
ミロル:シリルの弟。
キャッスル先生:シリルの担任。のちの妻。
グリン:伯父のハウスキーパー。
D卿:レカが働く屋敷の主人。=アモル・ドラモンテ:D家の御曹司。ロマンに恋する。幼い頃は金色の髪を伸ばしていた。
カロス:灯台守→遠縁のロマンが泊まっている
ドーラ:カロスの妻。
マダム・デボン:サヴィの店にいる占い師。→アイコッドの初期研究者。レカの母。
ソランジ:D卿(アモル)の末息子。ロレの婚約者。
トマソ:レカがロッジに住んでいる時の庭師。→ドラモンテの直系の孫
ロアン夫人:D卿の家政婦。レモンドーナッツが得意。
フランシスカ:アルクの大伯母。(祖父の姉)
ルビ(ルビアネッサ):アルクの妻。
ペドラドラ:ルビの父。D卿と知り合い。
シルヴィオ:ルビの兄。
ダビド:ミロルのクラスメイト。
エルレイ:父のドーナッツ屋の留守番役。
ルル:ミロルの友だち。

マグピー:アルクの劇団の座長。
バロッカ:首相。アイコッドの理事を兼任。
リド:レモンの兄。
オリゾン王:架空の人物といわれる。真珠の髪。オルニカを持つ。
サヴィ:手芸店
エレン:ミロルの妻。
カイロ:1997年シトラスカ湾に流れ着く。バロッカの再婚者の末息子。ロマネスに恋する。
エレノアル:先生。カイロの娘のひとり。

家系図

年表

1901年:カロスのところにロマンが泊まる。11歳。
1904年:アモルが寄宿学校へ。ロレが海難事故。
1942年:ソランジが軍へ招集。
1972年:レカがデカルコで到着。双子(レモン・アルク)が生まれる。
1977年:カイロが湾に辿り着く。
1983年:D卿は灯台横のロッジで暮らす
1983年:ルビがロマンと出会う
1985年10月24日:ナウシストとロマンが島に着く
1996年8月:レモンの船が姿を消す。→アルクがデカルコで辿り着く。
1999年:シリル生まれる
2013年3月:シリルが作文を書く。D卿は67歳
2023年:ミロルがカイロと出会う
2050年:アイコッド開設。
2170年:ナウシスト生まれる
2182年:ナウシスト12歳。
2196年:D卿生まれる
2210年10月:ソラがデカルコを書く。
2210年:カイロが生まれる。
2213年:王国千年
2220年:ソラとレカが結婚
2222年:柩が流れ着く、アルク生まれる。
2230年:カイロがデカルコを発進させる
2246年6月:アルクが収容される。

地名

シトラスカ湾:現シビラベイ周辺
オルトラノ:ポルトラノを含む広大な連合体の名称。人工陸地と周辺国を含む。
ポルトラノ:海面上昇で国土を減らした海洋国。
ポルトロ:ポルトラノの首都。
ドラモンテ島:ポルトラノにある島。幽霊島と呼ばれる。
バルビラス半島:21世紀の終わり頃、海面上昇によりほぼ姿を消した半島。
M国:ロマンがいた国。
マルバロ:ポルトロからもより。
モレルノ海岸
マルナ市:ルビの住む街。島。

用語

ICOD(アイコッド):時間旅行を可能にする装置を研究。《デカルコ》と呼んでいる。
マシュマロデイ:秋の収穫を祝う祝祭。
ロトル:交通機関。
アラスカ:大きい書店。
サンド・ファウンテン:広場。
コロンビエラ:鳩時計つきの帽子
ハーバーランド:遊園地?
グラフィコ:書かれたもののデータベース
鳩小屋:書類だな、監獄、墓場のこと。
アクアノート(船外技術者):火星探査に携わる
ポルトロ:青黒い石。それから作る絵の具の色。
シアノピカ・シアナ:青い翼の鳥
マグピー:魔よけの羽
灯台:D卿のもの

受け継がれるもの

①SとRの指輪→ソラとレカの頭文字。
ソランジが父アモルに託す
ソラが少年から片割れをもらう
アルクが父から片割れをもらう

②港町の絵
レカが持っていた
アルクが父と住んだ家にあった
ナウシストがロマンと行った家にあり、ロマンが盗む

③ボート
ロマンがつくったブランコ
ソランジが設計
双子のひとりを水葬
ルビが拾う
ナウシストとロマンが乗ったボート
シリルの伯父の椅子

アオイガイ
メレンゲと小鳥で飾った貝の船
タコブネ、紙の船
ソランジが設計

④本
オリゾン王の物語
ソランジが船の参考にした
ソラが書いたデカルコ

超少年

テレヴィジョン・シティ」や「新世界」といった、SFの系譜。
ムックで長野さんが「植物の黙示録」とおっしゃっていますが、現在生息している植物が絶滅した未来のお話です。植物を育てるための土壌が無くなった星で、少年の姿をした生命体が植物を育成・培養するという内容。

解説の「独身者」というのが、なるほどなと思いました。

『千年王子』などまで読んでから戻ってこようと思いますので、メモ程度に。
以下ネタバレあり

登場人物

スワン:鳶色(オーバーン)の髪、菫青(パンシエロ)の睛。原初の王子。特徴的な旋毛で、甲虫紋(スカラベ)がある。
カイト:スワンの兄。ハイパーフットボール選手。ANSA特務員(不明者捜索担当)。琥珀色(アンバー)の睛、髪は銀糸の混じる亜麻色(フラックス)。
ヒヴァ:スワンの同級生。
ピオ:ヒヴァの弟。

ピエロ:鹿毛色(フェロー)の混じったブロンド、碧緑(ジェード)の睛で白斑眼(ファキュラ)。(「海のピエロ」と呼ばれる)ツノメドリに似ていることから「ピエロ」と呼ばれる。
ピエロ-α:鳩羽色のセーター。感情が抑制されている
ピエロ-β:学生服、スワンの従兄として学校に通う。短気。αと同調ごっこしたことがある?
ピエロ-γ:全身白いニットで、ピットに乗ってきた。短気。

特派員

各章で特派員がTopic Newsを書いています。
①ニオイスミレ:Legno Ao-Site
②エニシダ:Soto Af-Site
③ヒヤシンス:Legno Ao-Site
④ネムノキ:Soto Af-Site
⑤カウスリップ:Lana Ak-Site
⑥スイカズラ・ツキヌキニンドウ:Tobia Ba-Site
⑦ユリノキ:Coni Bx-Site
⑧スイレン:Dalio Ca-Site
⑨ホンゴウソウ:Sala Ck-Site
⑩イチヂク:Sarda Ae-Site

名前がイタリア語のようなので、Google翻訳にかけてみました。全部に意味は無さそうですが…
Legno(レグノ):木材
Soto(ソト):下に
Lana(ラナ):ウール
Tobia(トビア):聖書にも登場する男性名
Coni(コニ):円錐
Dalio(ダリオ):男性名?
Sala(サラ):部屋
Sarda(サルダ):イワシ

ただ、スワンに誕生日ケーキを贈ったLegno(レグノ)は何者か?特派員報告でも王子(スワン?)とLegnoが話している映像が映っており、ピエロたちが驚く。カイトが正体を知っているとのことですが、「木材」という意味から察するに、スワンの親のような存在=”聖なる森”の大樹かなと想像しています。
ここからは無理矢理な想像ですけれども、”聖なる森”の大樹が人間のような姿になり、ANSAの特派員となる。カイトだけが正体を知っていて、Legnoもまたカイトとスワンが一緒にいるのを知っていて、報告書には書かない。こっそり誕生日ケーキを贈るのみ。

Siteも意味があるかは分かりませんが、アルファベットが進んでいるような…?

ちなみに特務員のKite(カイト)は、”凧”。最後に「蝶型凧(マカオン)に乗ろう」というのは、カイトの名前が入っていて意味深…

時代

二十一世紀初頭:カウスリップが絶滅
二十一世紀:土壌の酸性化が進み、植物は二酸化炭素を出すように変異
二十二世紀:群体Sの王子が行方不明
2160年:本作の時代
二十三世紀半ば:ニオイスミレが絶滅
二十四世紀:環境汚染が深刻化
二十四世紀末:ヒヤシンスの最後の個体が確認される
2389年:カナリア諸島でエニシダの生息が途絶える
三十一世紀:強制的に居住衛生(ハビテーション)へ移住

用語

超(リープ):時代、場所を超えること?ドラ〇もんのタイムマシーンみたいな。
流線型装置:超(リープ)のための乗り物?
イリュージョンラジオ:特派員がAVIALYとの連絡に使う。
ハイパーフットボール:無重力で行うフットボール。
無菌容器(インキュベーター):変形する保護膜のような無菌室?

場所

AVIALY(エービアリイ):人工天体の新居住地。鳥かごに見立てた名称。
Sial(地上):絶滅した植物が生息していた、元居住地。≒地球

衛星2197-059:無名人墓地45
居住衛生(ハビテーション)
電磁波研究衛星

S/U境界市:2160年に存在した都市。周りを人口の緑地が囲む。
電氣会館:S/U境界市の中心街。
バロオト地区:磁石が狂う
ピアンタジオ(衛星プランテーション):S/U境界市の植物を育てる。

A/Z統括都市:カイトの遠征先。
M/M環礁都市:亜熱帯地域。

組織・役職

絶滅植物復活委員会:無名人墓地や超によって、絶滅した植物の種子を蒐集している。
ANSA特務員(不明者捜索担当):カイトが所属する。
ANSA特派員

ISFA(国際宇宙連邦局):宇宙工学のスペシャリスト集団。ハイパーフットボール選手が所属している。AVIALYができる千年前に解体。カイトが所属している。

王子とピエロ

私は蜂や蟻などの社会をイメージしています。女王が王子で、働き蜂・蟻がピエロ。
虫の擬人化(少年化)と考えれば、植物を育てるのもハマりますね。

【用語】
王子:主体的に知的活動や運動を行わない。糖分がエネルギー源。
ピエロ:複数おり、成年期には別の群体に移り、王子の面倒を見る。
両生類(アンフィビアン):王子やピエロ。AVIALYの大半を占めるノーマル型と区別した分類。
群体(コロニー):同じ日に生まれた〈子どもたち〉の総称。
※群体(コロニー)S(SWAN-LAKE)の王子:植物相培養装置として優れる。エッグを持っている。超中に事故で行方不明。
※群体(コロニー)Sのピエロα:何百種類も配偶子を持つが、第一王子にしか働かない。

プロトチュウブ:王子とピエロが持つ器官。
同調(シンクロ):システムであり、感情で作用しない。プロトチュウブを伸ばして行われる。接触しなくても可能。
※同調ごっこ:どんなものかは出てきませんが、疑似同調としてプロトチュウブを伸ばして躰を変化させる?
エッグ(保湿器):ピエロ特有の器官。ごく稀に王子もエッグを持つ個体がおり、球根を培養できる。
乳液(スワンミルク):植物が成長する養分になる。ゲル状になると王子の眠りを誘発する。
装置(ゆりかご):乳液をゲル状に止めておくことで、王子を眠らせておく。

【特有植物】
スター・プランツ
デザート・ピー
流星スミレ
マラカイト・ビーンズ
ピアネッタ・ブルー

【植物の成長過程】
・ピエロから花の種(細胞/セル)を移す
・ピエロの配偶子(ジェム)とプラズマで受精する=同調(シンクロ)する/王子は昏睡状態になる
・蜜は王子の中で乳液となる
・ピエロは乳液を王子の先端器官や切り口から吸い、養分にする
・芽が出る

【次世代】
ピエロと王子が変性プロトチュウブで交配を行い、未分化の子どもたちが生まれる。子どもたちは群体(コロニー)を形成し、蜂などのように役割分担がなされ、王子とピエロに分化する。ピエロは複数体として生まれ、α・β・γ…と階級がつき優位なものが単体として残る。〈少年期〉の複数体から〈単体化〉して変容した状態を〈成年期〉という。
※ピエロα・β・γは〈少年期〉。
※カイトは分化せず、周期的に王子にもピエロにもなる。

二組の旅

群体Sの第一王子とピエロα

・ピエロαが大きなマグノリアの樹を見て泣く、王子が歌う→絶滅植物を探す旅に終止符を打ちたい
・自分の意思で活動できない王子を憐れんでピエロαが王子を置いていく
・ピエロαは体調不良で病院へ
・王子は雪解けのたびに山を降り、長い年月をかけてピエロαを待つ
・スワンが第一王子の居場所を発見し、二人は再会する
・二人でリープの旅へ出る?

原初の王子とカイト

・M/M環礁都市でANSA特派員が出会った青年=カイトが語った”聖なる森”の伝説=原初の王子の始まり?
・群体Sの第一王子を探すために特務員として超(リープ)したカイトは、第一王子ではなく原初の王子・スワンを見つけ、弟と思わせる
→この二人は何年も(何世紀も?)一緒に旅をしている。ただ、超(リープ)先を変えるたび(同調するたび?)にスワンは記憶を失くす。

スワンはカイトに対して「兄弟でもないのに、どうして一緒にいるのか」と聞いています。カイトははぐらかしていますが、スワンが忘れているだけなのではと個人的に思います。群体Sの第一王子とピエロαのような強いつながりがあるけれども、スワンは都度忘れてしまう。
また、原初の王子が見つかったとなれば、ANSAの研究対象になってしまうと思いますので、ピエロαが第一王子を憐れんだように、カイトもスワンを自由にしておきたくて弟にした?

スワンはカイトをシステマチックと云っていますが、スワンに対して感情を見せても相手は忘れているので、どうしようもないんだと思います。『新世界』のシュイに対するソレンセンの感情みたいな。

スワンが前に蝶型凧(マカオン)に乗った時期が気になります。相当前なら、カイトの名前が入った乗り物のことだけ覚えていてエモい。

新世界との比較(境界と浸透)

本作の王子は『新世界』の《女》のように、養分を与えられると境界を無限に広げていく。
同調は『新世界』の《融合》のように、相手との感情や呼吸までも一体化する。身体機能も移る。

新機能と感情

本作で感情を抑制しているのはピエロαとカイト。
感情を露わにしているのは、スワン・β・γ。

感情露出タイプは、感情抑制タイプに惹かれているような印象。
他の長野作品でもそうですが、抑制できる者が完璧で能力が高い。

新世界

全5巻のSFシリーズ。時間がかかるかなと思って二の足を踏んでいたんですが、読み始めるとあっという間でした。
イッキ読み推奨です…

テレヴィジョン・シティ」では表現がやんわりしていたセクシャルな部分が、本作ではハッキリ書かれています。長野さんが植物や昆虫の生殖ブームだったらしく、擬人化したらどうなるだろう?というところから始まったとのこと(文庫の巻末インタビューなどにあります)。
登場人物は我々のような人間ではなく、昆虫・植物の擬人化(少年化)という理解の方がいいのでしょうか…

以下、的外れなところはあろうかと思いますが、忘れないようにまとめておきたいと思います。

文庫版巻末

文庫版の各巻末に付録があります。すべて5thまでの内容を含みますので、読了後に読んだ方が分かりやすいです。ただ、読む前にざっと目を通しておくと、ストーリーの理解がしやすいと思います(ただしネタバレがあります)。私は読む前にムックに目を通していたので、ぼんやり内容が入った状態で読み始めました。
2nd~4thは「文藝1998秋号」に掲載のものの再録で、インタビューとQAはムック「文藝別冊 三日月少年の作り方」にも掲載あり。ムックには図解はないですが、巻頭にカラーで全巻の表紙の掲載があり、それぞれ文藝1998秋号とは違うコメントがついています(ムックは解説というより制作秘話に近いです)。

1st:田野倉康一さん解説
2nd/3rd:ロング・インタビュー
4th:新世界』をめぐるQ&A、図解・カバーイラスト集
5tn:文庫版のあとがき

『新世界』を一読しただけでは何の話か分かりにくいのですが、これらを読むと少し理解が深まります(と私は思っています…)。
文藝に小特集が組まれるなんて、当時の人気すごかったんだなと想像しています。

単行本と文庫

単行本と文庫では、表紙が少し違います。
単行本の1stは、螺旋階段をイオとシュイがのぼっているシーンですが、文庫本は少年(ハル?)になっています。他の巻がすべて少年のイラストのため、文庫版にするにあたり統一感をもたせたそうです。
また、ロゴも一新されています。
単行本は儚い感じがしますが、文庫はスタイリッシュな印象です。

登場人物

※ネタバレしかないです※
とりあえず、作中の流れのままのメモと、その後に「結局何だったの?」という表です。
本作では夢や幻覚が挟まれて、人物名が出てこない場合があります。その際には人物の特徴(特に睛の色)で判別しますので、色を覚えておくのが大切です。

人物一覧

イオ

太陽(ソル)の光に弱いため、夜間学校に通っている。碧の睛。名は「自我」という意味。ラシート?蒸留器官を持つ。→ソレンセンとエヴァの子だが、提供者(女になるための器官の培養者)となるためシュイの弟として育てられる。→ソレンセン(ラシートの女)がラシートの女として産んだ子供。後継者となる。

シュイ

イオの兄。灰色(銀色・白銀)の睛。アスオン→ミュラーの子で、HALASSの男から女にされようとしていた。

ミンク

ラシート。美しい顔で、話は出来ない。銀杏(ヒスイ)の睛。鳶色の髪(オーバーン)の毛先だけ蜜色に光る。名は「脳」という意味。
→イオが変光睛(ルシアス)しているとされる(躰を共有しているかは不明)。

ソレンセン

医師。淡青色(みずいろ)の睛。母星化した際に睛を《TRAN》している。
→ミュラーによって母星化されたラシートの女。夢で出てくる繃帯の少年。

ジャウ

ハルに仕える亜人。榛色(ヘーゼル)の睛。蜂の巣にいたところを、ソレンセンが機関構成員(メンバー)に入れた。蒸留器官を持つ。→HALASSとラシートの混血で両性、肌の色が亜人に近かった。ミュラーとラシート(ソレンセンに似ている)の間にできた子。

ハル

イオの学校の上級生。ライスーン。
→P.U.S.に罹り《女》になる途中。治療のためにゼルを欲しがっていた。→母星化され女にシフトしたが、躰はライスーンのまま。

レト

病院の少年=ラシート。シュイとソレンセンの連絡係。意思疎通は出来ないが、意志はあるため、シュイと睛で会話する。

セシェン

ハルの長兄。→ライスーンでP.U.S.に罹り《女》なので《姉》。1stで子がいるが、シュイとの子?

ミーモ

P.U.S.のため太り出して夜間部に移動してきた生徒。

ラルゥ

シグリ系で、ミーモの《姉》=《女》。シュイと対(ペア)。

リュカ

アスオンで優等生だったが、脳を歪められ今は病院にいる。→母星化され躰も女にシフトした。

エヴァ・フランカ

ソレンセンの妻。医療局。黒髪で睛は緑。→実は双子の姉妹。

イゾアール

マザーワート植民政府参事、アイスの会長→ラシートの女。正式な後継者ではない。

ミュラー

マザーワート植民政府副参事。→HALASS。

最終種族・性別

※親については後ほど書きます。

人物名母星化ラシートHALASSライスーン※親
イオ★女ソレンセンとシュイの子
シュイ★(もともと)★男ミュラーの子
ソレンセン★女
ジャウ★両性ミュラーとソレンセンの兄との子
ミュラー★(もともと)★男
イゾアール★女
ハル★女
特徴成長する女は匂いがある太陽光アレルギイがある

用語

地名

新世界

母星と夏星の間の人工集合天体。行くには許可証と資金が必要。身体機能が向上するという。

マザーワート

母星系の人々が多く住むところ。

夏星(シアシン)

かつてラシートを頂点とした砂丘地帯の都市がある小さな星だったが、母星系に侵略された。ここに住んでいた種族は別の球体(オーブ)=新世界の人工天体?に移される。今は滅んでマザーワートとなっている。

オシキャット

作品の舞台。夏星系の種族が移り住んだ場所。

蜂の巣(ルシエ)

亜人の居住区。

チュンハ

港町。闇市がある。

カピシオン

ラシートは「夏海(マーレ)」と呼ぶ。太陽(ソル)ではなく白色煌燈(オーロライト)が光源。

※全体的な印象
漢字名とカタカナ名があるが、夏星が使う呼び名では漢字名で、母星系はカタカナという印象。
母星が気象変化で住めなくなり、代わりの居住区を探したところ、夏星の種族を追い出してマザーワートとする(「侵略の時代」)。夏星の種族はオシキャットへ。これが、数多くの天体が集まる新世界の一部の地域。

組織

医療局(オス)

マザーワート植民政府管轄の医療組織。

ICE Inc.

母星系の人々の法人組織。オシキャットで珍しい物質を手に入れて利益を得ている。

種族・階級

ラシート

ゼルを持つ特別な種族で、唯一P.U.S.に罹らない。今はない夏星(シアシン)では最上位階級だったが、脳が退化させられ現在はオシキャットの病院に収容されており、“永い眠り人(スリーピング・ビューティ)”と呼ばれる。

ラシートの女:一世代に一人だけ法的に認められた者が後継者となり、覚醒した時にだけ記憶装置のゼルを生成する。先天的に女の匂いが分かる。覚醒するにはHALASSの男が必要。

アスオン

最下層の階級。哈蜜(ハミ)を蒸留し、恩寵の注入(アンフュージョン)を強いられる。

ライスーン

特定のアスオンを動けなくする。哈蜜(ハミ)を蒸留するが、恩寵の注入(アンフュージョン)は地位の低いアスオンに押し付け、自分たちの哈蜜は高く売りつける。

シグリ系

P.U.S.の発症率が高く、ゼルを受け付けない体質のこと。

母星系

侵略してきた種族。生殖システムは一元的。人口減少のため、男性は結婚が義務付けられている。→人間に近いと考えると分かりやすいかも。老化と生殖対策のため侵略し、オシキャットから利益を得ようとしている。

母星化(フォーミング):夏星系の躰を母星系の種族のものへ作り替えること。夏星系の種族は成長が一定時期で止まるが、母星化すると成長が始まる。

HALASS(ハラス)

母星系の少数民族で、男しか生まれない。とても長生き。女性器官の退化した部分にゼルを注入できる。身体能力は優れているが、引き換えに光に弱いなどのアレルギイを発症する。

亜人(アジヤン)

顔以外を布で隠し、年老いた容姿。躰は人口でなくても修復できる。母星系の種族が人工交配する過程で生まれた。哈蜜を取り出すことができる。

船員

身体はほぼ人造。

生殖システム等

《PRES(プレ)》:躰の一部を様々な素材で模ったもの。欲望を満たす。
《TRAN(トラン)》:躰の部位・器官を交換する。
紅瓊(ルビオ):唇
哈蜜(ハミ):アスオンやライスーンだけが持つ蒸留塔で生成され、ラシートや《女》の糧となる。燐光と断食の後に生成されるが、ゼルに触れるとすぐに生成される。
恩寵の注入(アンフュージョン):哈蜜の注入。母星系は余暇(レク)と呼ぶ。
燐光(スパアク):14~15歳で初めてするのが一般的。躰の下位器官を蒸留塔に変える。
断食(ジヨルノ):燐光の後、哈蜜を生成するための数日間の絶食。
ゼル:ゼラチン質の透明な塊。P.U.S.による《女》化を防ぐ効果がある。未分化の状態でラシートの体内で生成され、自身の意志でA型かS型に転化(トランス)させる。記憶が込められている。
ASSE(アス):ライスーンに合うゼルの型。翠緑色(マラカイト)になる。
SIAL(シアル):アスオンに合うゼルの型。海王碧(ネプチュン)になる。
P.U.S.:《女》になる病気で、14~15歳で発症。超肥満で膨張し続ける。アスオンやライスーンの子を産む。
《女》:肉塊(マツス)となり、脳が溶けて記憶が無くなる。母星系(≒人間)の性別としての「女」とは異なるので《》が付いている。
花唇(フィオル):《女》の交配に関わる部位。
蛋白粉(オーパル):《PRES(プレ)》する気があると買い手に知らせる粉。
貝蛸の船(ノーチラス):哈蜜を求める亜人の目印。
“小さい子”:11~12歳から燐光(スパアク)を経験するまでの呼称。胸腺があり、燐光すると脂肪に変わる。→インタビューより、胸腺は昆虫の変態を司る部位にあたるとのこと。燐光することで変態し、蒸留塔ができるようなイメージ?
対(セット):提供者(ドナー)と《女》の交配ペア。17~18歳で通知が来る。
《融合》:一部のラシートが可能で、異なる機能を持つ個体へゼルを移す。→ソレンセンがシュイに行う

その他

CODA(コーダ):コンピュータのようなもの?
身体座標(フィスグラフ):躰の状態・履歴
人工水晶(モリオン):コンタクトレンズのようなもの
殻(シエル):鋼青(ワイヤ)の先に鉤のある武器。
歩行用具(カシエ):歩くことが出来ないラシートの歩行を補助する。
変光睛(ルシアス):周期的に目の色が変わる体質。
触角機能(アンテナ):オシキャットの視覚の弱いものに備わった、存在を感知する機能。
虫(ピス):飲ませることで、体内で悪さをする。→おそらく階級の上の者が下の者へ強制的に呑ませられる。
拘束寝台(サラマンダー):動きを抑える器具。
休眠(ケス):ミュラーがソレンセン夫妻と子、息子にかけた。
太陽(ソル):オシキャットの熱源。
里親制度:マザーワートがつくった制度で、円滑にするためにオシキャットの少年は11歳くらいまでの記憶を奪われる。
フリシア:暗紫色の花で、数年に一度だけ白い花を咲かせる。夏海では一年中白い花が咲く。(長野さんが造った架空の花だそうです)
焔の蝶(マンダリン):幻影に現れる蝶。砂丘に住んでいる。通常は南下の航路に夏海は入らない。
“R”電話:新世界の定点観測所を読み上げる。

時系列

シュイの夢か真実かも分からないので、時系列に整理しても無駄だと思いつつ箇条書きしてみます。主に過去に何が起こったかなので、後半しりすぼみに…

・イゾアールは夏星にやってきたHALASSにラシートの女の後継者を渡し、ゼルを奪って正式な後継者となろうとする。
・イゾアールはライスーンと結託して、HALASSに夏星を侵略するよう導く(=侵略の時代)。夏海で眠っていたラシートを”永い眠り人(スリーピング・ビューティ)”にする。
→この時、ミュラーはラシートのなかにいたソレンセンを、カピシオンに連れていく。シュイもここで静養しており、そこでソレンセンとシュイが出会う。※5th文庫P171はこのシーンだと思われ、ソレンセンがシュイを選んだのは偶然じゃないという。
・ソレンセンはミュラーによって母星化される。
・ソレンセンはシュイの躰へゼルを移す《融合》をし、ラシートの記憶がシュイに移る。《恩寵の注入(アンフュージョン)》もした?
・(成長した?)ソレンセンはシュイの担当医になる。
(・シュイがカピシオンの旅荘で過ごし、担当医のソレンセンに手紙を書く。)休眠明けかも
・患者のシュイ・ソレンセン夫妻と子がマザーワートで《休眠(ケス)》、妻子が行方不明になる
→先に起きたシュイはイオを連れ出して砂丘に逃げたが、倒れているところに焔の蝶マンダリン(=HALASSとラシートの出会いの目印)が群れているのを発見される。

※ここまでのシュイの(ソレンセンにとっても重要な)記憶は、その後のオシキャットでの治療でなくなっていた。ミュラーに言われて思い出す。→ゼルに組み込まれていた

・五年前:ソレンセンが収容所でオシキャットで患者(シュイ)を見つける。未分化のHALASSはオシキャットの”小さい子”に似ていたため、間違えて連れてこられた=前妻のゼルが必要
・ソレンセンがシュイを養子にする。
・2nd:シュイがイオを病院から連れ出す
・1st:イオがシュイに重症を負わせる
・ジャウ重症
・5th 5章:シュイはミュラーの息子としての記憶を植え付けられる(カピシオンの記憶がある)。
・すべてが終わる

焔の蝶(マンダリン)、信号音(シグナル)

QAやインタビューより、マンダリンのモデルは越冬のために南へ移動するオオカバマダラ。世代が変わっても、遺伝子に組み込まれている”記憶”によって、南へ移動し冬を越す。
ラシートの名前を読み上げ(記憶を呼び起こす信号音シグナル)、「集合せよ」「もう一度ここへ戻ってこよう」というのは、故郷・夏星へ戻ろうという記憶がオオカバマダラのように潜在的に組み込まれているもの?

ちなみにソレンセン本人登場前に、ラシート名前読み上げのなかに入っているんですよね…伏線わい…

ラシートの名前を読み上げは、インタビューであるような「テレヴィジョン・シティ」や「天体議会」の無機質な音に近い印象です。

ラシートの女の覚醒

ラシートの女として覚醒するには、「HALASSの男」が必要。シュイ・ミュラーがHALASSの男です。ジャウはHALASSとラシートの混血で、男ではなく女にもシフトします。

①ソレンセンの覚醒
シュイとの《恩寵の注入(アンフュージョン)》で覚醒。このときソレンセンは繃帯の少年の姿であり、《融合》を行ってシュイにゼル=記憶を移す。→この時点で、後継者としての機能も移る?
一世代に一人のため、イオが覚醒する時にはソレンセンは女としての機能を失っているかも。

②イゾアールの覚醒

ジャウとの《恩寵の注入(アンフュージョン)》で覚醒。ただしイゾアールはHALASSの”男”が覚醒のカギになることを知らなかったので、ジャウが”女”にシフトしている時にのみ行っていたため、覚醒が不十分だった。

③イオの覚醒

シュイとの《恩寵の注入(アンフュージョン)》で覚醒。ちょっとタイミングがあやふやですが…

・イオが完全に女として覚醒し、不完全なイゾアールに勝る
→これがソレンセンが意図していたことで、最後にイゾアールがイオに虫(ピス)を呑ませようとしても、躰が動かず押し返された。種族の力関係ではイオが勝っていたため。
・ソレンセンはミュラーに機能的に勝っていた
→上記はエヴァのセリフですが、覚醒したラシートの女がどの種族よりも強い?機能的にソレンセンがラシートの女と気付くはずがないというのが引っかかりますが…

ラシートの女の匂い

ラシートの女の匂いは、先天的にラシートの女が嗅ぎ分けることができる。HALASSの男もラシートの女の匂いが分かる。
ジャウ(ラシートの女):イゾアール・ソレンセン・イオの匂いを嗅ぎ分ける。
シュイ(HALASSの男):ソレンセン、イオ、ジャウの匂いを嗅ぎ分ける。
→当初からソレンセンの女の匂いをエヴァのものと思って落ち込んでいましたが、そもそもソレンセンが女であるという説…!
※ミュラーは匂いについて知らなかったので、嗅ぎ分けられなかったとソレンセンは言っている。

母親は誰か?:ジャウの場合

ジャウは最終的に、HALASSとラシートの混血で両性の子であると分かります。
父:HALASSの男であるミュラー
母:ラシートでソレンセンに似ているとミュラーは言う ※母体は別

「ソレンセンに似ている」と分かった後で、イゾアールがゼルを奪ったラシートの女が”ソレンセンの兄”であると分かります。このことから、ジャウはミュラーとソレンセンの兄の間に生まれた子ではないか?と思います。
ソレンセンとジャウの間に不思議なつながりがあったのは、血縁関係にあったからではないでしょうか。ジャウにとってソレンセンは叔父さんで、シュイは兄弟ということに…?

母親は誰か?:イオの場合

イオはソレンセンが父で、エヴァ(双子の妹)が母だとされてきました。見かけでいくと母星系×母星系の子ですが、イオにはラシートの特徴がありました。

→5thでエヴァが母親はソレンセンだと言います。ソレンセンがラシートの女とすれば母親になれるし、イオはラシートの特徴を引き継ぐことが出来る。
→となると父親は?ということなんですが、ソレンセンはHALASSの男であるシュイと出会って《恩寵の注入(アンフュージョン)》しているので、シュイが父親である可能性もアリかなと…
イオはシュイよりも軽いですが光アレルギイがあり、シュイのHALASSの特徴を受け継いでいるとすると合致します。
好色ミュラーがやらかしていたら悲しみですが笑、ミュラーは息子が二人と言っていますし、ラシートの女の匂いが分からずソレンセンを男とみなしていたのを信じれば、シュイが父親であれ!って感じですかね…

イゾアールが「ミュラーでなければ、誰がお前を女にしたんだ」とソレンセンに問いますが、残るHALASSの男はシュイですので、シュイがソレンセンをラシートの女に覚醒させて、イオを宿す。バレずに生む必要がありますので、どうやるのか分かりませんが母体はエヴァ?

ここでも謎が残るのですが、ソレンセンが「前妻のゼルが必要だから探している」と当初言っていたので、そこが分かりません…

HALASSは長生きだと言いますが、長い歴史の中でラシートの女であるソレンセンの子を宿し、次はイオの子も宿し…と繰り返しているような印象です。HALASSの男とラシートが夏海に還り、航路を変えた焔の蝶(マンダリン)の群れを目印に出会う連鎖?
→これが覚醒に必要な、重要な記憶

イオの記憶

3rdで「繃帯や紐は同化する」とミンクが誰かから聞いた、とありますがソレンセン?1stでイオは初めて会うソレンセンの睛に見覚えがあったことからも、会ったことがあり記憶の奥底に眠っているけど思い出せない状態かと思います。

機能・欲望・感情

生殖活動の比喩が多発しますが、それを突き動かすものは次の3つに分けられると考えています。
「機能」・「欲望」・「感情」
以下、ちょっとまとまらない考えですがメモ程度に…

機能

快楽を得ない、作業的にこなす。
夏星系の種族が母星系の種族と恩寵の注入=余暇しても快楽は得られないため、その行為は機能的。
母星系では接吻を儀礼的に身分照会のために行い、これも機能的なもの。

欲望

欲望は階級差がある場合「支配」とセットで語られ、階級によって下位の者の欲望は上位のものに支配される。また、欲望は《女》が持つもので、境界を失くさせる。行為には快楽を伴うのが、機能的なものとは違う。種族として「欲しい」という衝動というイメージ。

感情

種族としての衝動を超えて欲する。感情を感じるシーンは以下。

①エヴァ:ソレンセンが必要とする女でいたい
②ジャウ:ハミの交流で、ジャウはシュイに心理的な影響を受ける=情愛が生まれる
③シュイ:レオやレトに安らぎを感じていた
④ソレンセン:エヴァの口ぶりから、ソレンセンが愛してるもの=シュイであり、ソレンセンがシュイを捨てなかった理由
⑤シュイ:ソレンセンに対する感情は、ゼルなどとは関係なく、ただ惹かれているから(長野さんのQAより)。休眠前から何世紀も変わらないとミュラーは言っている。

→上記から、最も感情的なつながりがあるのは、シュイとソレンセンという印象。イオとシュイは次世代のためゼルの影響っぽく、私としてはシュイとソレンセンのほうが強いかな…?と思っています。ここが一番エモいです。

※メモ:5thでソレンセンがイオと対峙した際、「身体と意識、機能と欲望」がぐちゃぐちゃと考えるシーンがありました。

境界と浸透

他の作品でも「境界」がテーマとなっているわけですが、本作で気になったところを取り出してみます。

・哈蜜を共有することで、境界が無くなり浸透する
→熱で溶けて融合する印象
・躰の像(フォルム)=少年の姿を保つためには、抑制知力が必要
 vs欲望で動く《女》は境界線を維持できずに、際限なく広がっていく。
・5th P87:シュイは繋がっている少年(ソレンセン)の躰は、外の世界の端的な比喩に過ぎず、自分が広がっていた
 5th P111:最高の快楽は、自分と外界の境界がなくなったときに訪れるとイオは云っている
→《融合》のことかと思いますが、境界が失くなる快楽とは…?

本作の境界を失った《女》は、「夏至南風」の最後の碧夏に近い印象。

残ってる疑問

第七頸椎=シュイの急所、龍骨の変化が何なのか?

※ジャウ・イオに蒸留器官がある

通常ラシートには蒸留器官が無いのですが、イオとジャウにはあります。二人の共通点といえば、ラシート(の女)ですが、その特徴なのか?ソレンセンやイゾアールがぞうなっているかを探しきらないと…

レプリカキット(螺子式少年)

単行本はタイトル「レプリカキット」でしたが、文庫化に際し「螺子式少年(レプリカ・キット)」に改題されています。
文庫で読みましたが、単行本も見たら1ページ目から少し違っていて(日曜日の歌が違う)、またいつか読みたいです…

テレヴィジョン・シティのようなSFで管理された地域に少年たちが住んでいますが、別の場所ではあるけれども両親がいるのが少し違っています。食事なども普通(野茨は好んでビタミン剤にしますが)、趣味も少年らしいです。
また、『天体議会』あたりからずっと続いていた、少年二人だけで基本的に進む形式も少しだけ緩和され、葡萄丸も加えて三人でストーリーが展開されるのも、少しだけ変化球かなと感じました。

この葡萄丸くんが超好きキャラでした。
従兄の百合彦を困らせる性格なのですが、熱を出すと片目が金色になったり、しかも熱を出す理由が「父親が音信不通で寂しい」っていう…そして猫ちゃんが大好き。あと野茨につっかかるのも可愛い。なのに、猫に優しいと知ると「いい奴だね」って見直すところも…LOVE…

【目次】
第1話 シトロネル シャン・ハイ
第2話 サーカスの天幕(テント)の下で
第3話 スパアクリング・スコォプ

【登場人物】
百合彦(ゆりひこ):両親と数年会っていない少年。
野茨(のばら):百合彦の友人。
葡萄丸:百合彦と同い年の従弟。父親は音信不通。睛は紫紺に近い菫色(ヴァイオレット)。熱を出すと左睛が黄金色(きんいろ)に変色する。
カシス:葡萄丸の猫
フルシェット:野茨の猫。
<夜警>:海洋史の教師

【キーワード】
氷の塔(セラック):百合彦たちが住む自治区。ほとんど人が住んでいない。自治委員がいる。
ピアブランカ(白い石):雑貨店
宇宙港(エアドローム):近距離の半島(ペニンシュラ)と、遠距離の隠れ処(ピエ・タ・テール)
庭園(サテライト)
月基地(ムーン・ベース)
煙草(シャン・ハイ):青封はヤミ。東洋風(オリエンタル)な薫り。
仔犬座(プロキオン)サーカス団

以下、ネタバレありのメモ
考察はあとにします…

レプリカはいわばクローンのことのようですが、クローンと呼びたくないとのこと(ムックより)

躰はイレモノで、”本物”とは何を意味するのか。外見と意識が複製されたものは、本物ではないのか?
傍にいて欲しいと思う野茨=本物
百合彦の父は、目の前のものを現時点で信用するかどうかが問題という。

外との連絡手段が手紙のみ。テレヴィジョン・シティではあまり活用されていない方法だったが、今回はアナログ。

葡萄丸の睛がキャッツアイのように変化すると、レプリカが分かる
→最後はカシスも見破っていたので、猫には見える?

文庫のあとがき「欲望がつくる風景」メモ
アメリカのSFドラマ『スペース1999』、大阪万博跡地、沖縄の海洋博公園、六甲山頂の天文台

テレヴィジョン・シティ

完全に管理された世界で暮らす二人の少年をめぐるSF長編。
絶版の単行本・文庫は上下巻に分かれていますが、本屋さんで手に入る文庫は上下合本になっています。分厚い。

考察したいところなのですが、たぶんこれだけ読んでも答えがでなさそうなので、また戻ってきます…取り急ぎメモだけ。
以下ネタバレあります。

学校ともだち」と同時期に書かれ、環境問題(紫外線)が共通しています。本作ではヴァイオレット=紫外線が不吉な色。

目次

第1話★テレヴィジョン・シティ
第2話★夏休み〈家族〉旅行
第3話★ママとパパとぼくたち
第4話★五日間のユウウツ
第5話★もうひとつの出口
第6話★仔犬を連れた人
第7話★碧い海の響き
第8話★南国の島

登場人物

アナナス:13歳。味覚と嗅覚がない。認識番号MD-0057654。コンピュウタ名CANARIA。精油はロスマリン。
イーイー:頭の回転が早く、運動能力も高い。認識番号ML-0021234。コンピュウタ名ROBIN。精油はヴィオラ。
ジロ:アナナスと幼児の頃から一緒で、自慢話が多い。認識番号MD-0057864。コンピュウタ名FINCH。精油はロスマリン。
シルル:イーイーとは児童の時から知り合いで仲良し。認識番号ML-0021754。コンピュウタ名PHOEBE。精油はジャスミン。

ママ・ダリア:アナナスやジロの母親。
パパ・ノエル:アナナスやジロの父親。
ママ・リリィ:イーイーやシルルの母親。
パパ・ニコル:イーイーやシルルの父親。

サッシャ:黒い仔犬

アーチイ:『アーチイの夏休み』に登場する、主人公の少年。
ダブダブ:アーチイが飼っている犬。
ファン・リ:『アーチイの夏休み』に登場する少年。

鐶の星

鐶の星:16の地区からなるビルディングの集合体。外は人間が住める環境ではない。

AVIAN(アヴィアン):セントラルコンピュウタ。

テレヴィジョン:映像
ヴォイス:音声
コンピュウタ:個人が所有する端末
レシーヴァ:音声を聞く機械

サーキュレ:移動に使う乗り物。ローラースケートに近い。
フロォペンシル:自然発光する硝子棒。
シネカ:短編フィルム。
ドロップボォト:陸空両用車。
ピスセスボオト:ゆっくり動く乗り物。
フォイルボオト:水中翼船。
ライドランナー:座ってキー操作ができる。

チュウブ:段差のない廊下。
ドォム:幻影が映し出される巨大な建物。
ゾーンブルゥ:ロケット発射基地があると言われている、立ち入り禁止区域。
シックルヴァレ: C号区とG号区の間の谷間。吊り橋がかけられている。
マーレ:砂漠。
ダストシュウト:各部屋にある不要物を捨てる場所、行先はビルディングの中央部と言われている。
ロケットシュミレエション:装置に乗って動かすと、本物のような感覚を味わうことが出来る。
パァン池:手で触れられる植物が生えている池。
フィルミック:写真を撮る。
ゾーンレッド:100階より下の立ち入り禁止区域。ダストシュウトに入れられたものが集まる。

幼児→児童→生徒:成長による少年たちの呼称変化。世話役(へルパァ)も異なってくる。
同盟:星の秩序。国家のようなもの?
ADカウンシル:鐶の星を管理する委員。
銀の鳥公社:調べ物をしてくれる図書館のようなところ?
ヘルパア配給公社:世話役(へルパァ)を支給する。
金の船郵便公社:郵便局。
青い鳥天文台

へルパァ:世話係の総称。似たような外見をしている。
ルゥシーおばさん:児童の世話係。
ピパ:生徒の世話係。RACH-45はアナナス
偏屈者のケネス:点検員。

暗号

暗号(Arianac)が登場しますが、私は数秒で解くのを諦めてしまいました…笑
フランス語とのことです。英語ならまだ何とかなりそうなのですが、英語も不安な私にはちょっと無理そうです;;

「テレヴィジョン・シティ_暗号」などで検索すると、解き方を書いてくださっているサイトが出てきます。

暗号のページ(上下合本):29/30/123/129/130/184/203/206/265/294/295/403/429/434/504/636/639/640/641/657/663681/682/690/691/692

認識番号

だからなんだという話ですが…
アナナスとジロの認識番号:MD →ママ・ダリア
イーイーとシルルの認識番号:ML →ママ・リリィ

クロス

〈クロス〉等の特殊単語が出てくるわけですが、個人的整理です…
ムックP72で「実質はセクシャルな世界」とあるので、そういう行為に対応した隠語ととれます。(人間のする行為とはまた別だと思いますが。)すべてが管理されている世界のため、すでに女性は排除(または隔離?)されていると思われます。「千年王子」では、すでに人口の数パーセントしかいないので、どこかに隔離されていた気が。
「千年王子」の方が、表現がハッキリしていたと思うので、また戻ってきます…

クロス:二人の意識が交叉する。禁止されている行為のため、管理上問題があると考えられる。
ピパ:中性的でsensual=官能的な外見をしている。
ロケットシュミレエション
マシン
service:クロスの反対になる行為のよう。
挿入:クロスをやめさせるために行う
shot:何種類かあるらしい。
vacances
部屋
セット:二人で一組。AVIANが組み合わせを決める。
ドナー:提供する人。アナナスやジロ。
レシピエント:提供を受ける人。イーイーやシルル。
エンゲージ:本質に気付かないジロのような存在とのこと。
精油:〈工場〉でできると言われていたが、違うらしい。ドナーがロスマリンを飲むことで体質が変化し、レシピエントが必要とする精油を抽出できるようになる。薫りが強い。薫り=フェロモンのようなものは、長野作品の通例のようなのですが、これも?
離脱・帰還

空洞

アナナスの名前はパイナップルからとのことですが(ムックより)、芯をくり抜いた空洞の状態からの連想ということで、アナナスが常に感じている「空虚」感が重要なテーマと考えられます。〈家族〉というのが概念でしかなく、自分がどこで生まれどこへ向かうのかが分からない。
長野さんの作品で度々登場するテーマなので、以後再考したいです。

凜一シリーズの「若葉のころ」で化粧井戸が登場し、雨音が凜一のなかの空虚に共鳴して響いていますが、これはアナナスの中に流れる轟音や帰るべき碧い海と同じ作用なのかなと感じました。

個人的メモ
・p271 外界が内部を侵食してくる。躰は流動的。
・P329 勇気の話:天球儀文庫で出てきた
・p348 感情→ことば→文字に変換する誤差 長野さんもワープロで打つと、草稿と全然違うものになるらしい。
・p407 ボディvsスピリット 空白を埋めるためには、躰を崩壊させるしかない
・最後のなぞかけの詩:ムックでは「意味のない詩を挿入するのが好き」とあるので、特に意味はないのかもしれない。

未来青年写楽(七社)

150年後の未来からやって来た「写楽」と名乗る美青年とのラブコメです。テンションが高め。
設定と世界観が独特です。未来では医学の発達により男性も子供を埋めるようになり、未来からやってきた写楽は、彼女いない歴=年齢の冴えない主人公に「子供を産んでくれ」と迫るのですが…

最後に少しだけBがLするのですが、設定が凝られていて圧倒されたまま終わってしまいました…

千年王子

テレヴィジョン・シティ、新世界…などのSF系譜。
それに千年という時と、オリエンタルな雰囲気が加わります。どこで読んだか忘れてしまったのですが、長野さんはツタンカーメンがお好きとのことで、矢車菊も出てきますし、そのあたりからの着想かなと…

長野さんの作品の中でもお耽美度が高めです。

千年の記憶と、今この一瞬のどちらが大切か、という問いだそうです(ムックより)。

登場人物

ルカ(Luc・i・a):Kksd-O1-33297-AS-r-378-B.H.(V)。褐色の髪、漆黒の睛。左手の親指に星の模様が2つある。
リヨン=エリュシオン(Lyon/E・lys・ion):Gallia-03-66478-AS-u-599-G(Y)Ece-Ry883。<極楽>を意味する名前。亜麻色の髪、淡青い睛。リヨンは様々なボディスゥツが無いと生きていけない。
シンヤ(Cyn・thi・a):月の女神を意味する名前。オークルジョンヌの肌、褐色の髪、漆黒の睛。普段は変な色のボディウェアと、不格好な眼鏡をかけてカモフラージュしている。
レイジ(Layji):狩人。オークルの肌、アイボリーの睛。ルナシオンの亡命王子になった時には、殺され墓に封印。冒頭のタトゥーの少年?

用語

マシン:♂特有の抹消器官。
リフト・オフ
Spark:リフト・オフ後の終結。
フィッティングルーム:マシンのケアルーム。
Onde:波動。フィッティングルームのオプション。
Rubout:こする。フィッティングルームのオプション。
Erase:ぬぐう。フィッティングルームのオプション。
フィット・イン :マシンを入れる。
Φ(フィ):開口部がない生殖器官。
ハイドロ・セラピー:体内から出たインパルスを、ウォーターパットを通じて、皮膚感覚を共有する。
カイロプラクティック

地名

ルナシオン:シンヤの出身地/国。オレンジの生産が盛ん。
アヴィシオン:エリュシオンの国。
ヴァリ:汚染地区。かつてシンヤが目指した目的地。認識番号の末尾(V)。
Colonia:地上の一般的な居住区。

世界観

・女性は人口の数%で、地上(地球)の隔離された場所にいる。
・地上(地球)に住むのは一部のエリート階級のみ。一般市民は衛星都市(サテライト)に住む。
・衛星都市(サテライト)には男子しか生まれない。
・生まれる子は、保存された細胞同士で生殖しているため、父母が何年前か不明。

時系列

ルナシオンの第二王子・シンヤが夏至の暁に生まれる=神の使い・水蛇を宿す
アヴィシオンの王女・エリュシオンとシンヤが婚約。
兄に追放され旅をし、砂漠で倒れる
シンヤの身代わりとして、レイジが亡命王子となり処刑される。
リヨンが拷問を受ける(エリュシオンとは思われない)→リヨンが見ていた夢(周りはエリュシオンと別人だと思っていたため、「どこだ」と聞いていた)
~千年後~
シンヤが目覚め、エリュシオンの墓を発見。→エリュシオンがアル・ファラに願ったため。
シンヤがルカを産み、アル・ファラに捧げてエリュシオンに再会。
エリュシオンを生き永らえさせたいシンヤは、アル・ファラと追加で契約。14年後にまた子をもらいにくるが、エリュシオンが歳をとらないのに対してシンヤは歳を取る。

※エリュシオンとシンヤが墓に入った前後関係は不明。

因果

シンヤとルカは転生して因果を背負っている。リヨンは14歳が寿命で、シンヤ(ルカ)が遺伝情報が同じアル・ファラの子を産むのと引き換えに再生する。蛇の指輪で歳を取らなくする。

シンヤは途方もなく長く生きている。

オレンジ:シンヤ=ルカの好物、エリュシオンと過ごした庭の記憶。

再生と救済の共和国3rd
認証コード:Avi-Chy-on-0925cbK(アヴィシオン)
変調コード:LNC-6-4901-WM
シリアルナンバー:Ganz-j-k2-30#7790

共鳴

躰の中に共鳴洞がある
Õ
シンヤの電子が浸透する

サマー・キャンプ

医療が発達した時代を舞台に、自分らしく生きることや愛情を問われるようなお話。
クローンを題材とし、個人的には「レプリカ・キット」「夏至南風」を掛け合わせたような印象です。

【登場人物】
鏡島温(カガシマハル):父母、叔母、祖母の3世帯で同居。女アレルギィ。5歳まで病院。
石和辰(イサワトキ):獣医。30歳すぎ。細フレームメガネ(視力が悪い訳ではなく、感情を悟らせないため)瞳孔を開くと左だけ灰紫色(チャコール)になり、右は黒。医師免許を取った後に、獣医免許を取り直す。昼間は女性を相手、夜は男性。元は右利きで、今は左利き。
ヒワ子:温の叔母で主治医。辰の大学の先輩。アレルギィが起こらない。30代後半。酒豪のうえに酒癖が悪い。
操江(みさえ):母。稀な美貌、内面の喪失。ヒワ子より2歳ほど上
タカ彦:父。ヒワ子の兄。医師。辰とフィジカルパートナー
景(けい):姉。
ルビ:片方の睛が灰紫色(チャコール)、右は漆黒の目をしている。右手にトルクを嵌めている。
MIDORI

【犬】
アフガンハウンド
ハービィ:ヒワ子の飼い犬。ボルゾイ。オス。
クリイム:母の飼い犬。ボルゾイ。
キト:ワイア・フォックス・テリア。
パピヨン:辰が祖父から贈られた。

【キーワード】
ABITAS-C1:相手を認知しない。男性にのみ見られる。情はなく、欲望を即座に満たそうとする。知能が高い。
メロンネクター、青豆のリゾット、スカンポのズッパ、カグー、ドラセナ、ユリノキ、鈴懸
学校:埋立地にある湾岸校
不燃物処理サイト:廃棄物を処理した際に出るプラスチックの破片が羽となって飛ぶ。羽はやがて消える
伊魚子(いさなご):鏡島家がある土地の旧称。あとがきによると、伊皿子が元になっている。
海浜公園:葛西?

家系図・性別整理

☆鏡島家:性判別がしにくい躰で生まれてくる。女性として出生届を出す。外見上は女性だが、男性機能ももつ。
ヒワ子:XY。祖母の精子とドナーの卵子でできた子。12~3歳までは髪は短く、男子として過ごした。
景:XY。ヒワ子の精子と操江の子。

温:YY。ヒワ子の精子と辰の卵子で受精後、卵子の細胞を完全に排除。表現は男性だが、機能は女性?+XXYの男しか受け付けない=ヘテロ。
※まだらな症状のABITAS-C1。→ほとんどの女性の顔や名前を覚えない。ルビも当初は認識できなかったが、二次性徴で男性の特徴が目立つと認識できた。ハービィとクリィムを区別できなかったのも症状のせい?

辰:鏡島家の祖父(XXY)と辰の母の子。母子家庭だったが、母が十二歳で亡くなった後、引き取られた(男の姿のヒワ子が偵察に行く、その時は女性?)。十三歳で器官削除(女性の機能?)→XXYの男?

ルビ:辰と操江の子。躰は男性・性自認は女性だが、女性の機能を削除され、「ありのままを生きたい」と思い悩む。

鏡島家で育ったルビ
→手術で女性の機能を失う
→ルビは辰の家へ預けられ、温に出会う
→温に認識されたくてもされず、見ているだけ
→おかしくなり、温はヒワ子の家へ(温は辰とすごしたことを忘れている?)

自己嫌悪

辰やルビが感じる「自己嫌悪」
意識と身体のズレで生じる。知性に躰が追いつかない。
躰と意識は一致しない。(意識は女性でも、躰が男性である、等)
自身が意識している性別は、左利き・右利きのようなもので、言われても容易には変えられない。

『夏至南風』のあとがきで、少年たちが怪しい男に惹かれ危険な道を行くのは、「嫌悪すべき自己」から逃れるためとあります。逃れるための確実な方法は〈死〉。
本作の辰も、自己嫌悪の果てに死のうと思う。そして処理場のプールで、腐りかけたリンゴのようになってしまう。

空虚

長野さんの作品で度々題材となる空虚。
今回は、空洞(うろ)を外から塞ごうとしていた辰。
外側からではだめで、おそらく内側=愛情が必要なのだろう。

記憶

母に抱かれたことのない温は、どのように抱かれたいのかわからないとヒワ子はいう。
最終的に、温が何も言わずとも、求めた時に抱擁してくれた辰。
→温の培養装置に付きっ切りだった辰の生物として記憶(本能)が温に移っていた

温と辰に血縁関係はないが、記憶をなぞることで絆が生まれ、愛情がはぐくまれている

気(アウラ)

ルビは天色(そらいろ)の気(アウラ)が温の周りに見える、と云っています。

似たような状況が、『レプリカ・キット』の葡萄丸。熱を出すと左右で睛の色が変わり、レプリカ≒クローンの肌の色が違って見える。

ルビも左右で眼の色が違いますから、体外受精で生まれた温に特別な気を感じる能力があったのでは?