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兄と弟、あるいは書物と燃える石

タイトルから難解な感じを受けますが、面白く私はスラスラ読めました。
何が本当で何が嘘なのか、最後まで混乱しますが、それを楽しむのが良いのかと思います。

小説に対する世間からの批判を、小説家である長野さんが書くという、どこか皮肉な入れ子構造が印象的。
そして、現実の事件と小説やドラマの筋書きが重なる感じも、構造的に近い感じがします。

以下、ネタバレあり

私:精神科医?
D:兄と結婚
老人と思っている若者:私が名付け親となる

計一(けいいち)
祐介(ゆうすけ):計一の兄。サラの夫。昔は計一にとって厄介だったが、高校生で事故に逢い、記憶を所々無くしている。清の担当編集者。
→中沢祐介:編集者。ひとりっ子で独身。
ユリア:三歳半の姪。
サラ:ユリアの母親。父はイタリア人
ユースケ:ユリアの布製の犬
シスト:サラの父。紙工房の職人。
リエト:ユリアの兄。=清三五(すがさんご):小説家。
ルビアン・バロック:フォトグラファー。清のパートナーと言われている。男だが女の装い。
ポンちゃん:お店の看板猫。
高砂チハル:リエトの家のハウスキーパー。→ユリアのパパ(血は繋がっていない)。

火の紙focus
清三五(すがさんご)原作
離婚で別々に育った双子の兄弟の話。
兄は編集者、弟は事件の記事や画像をメディアに売る→実は体はひとつで人格が2つ。

野ばら

夢と現実を行き交う、美しく不思議なお話です。
柘榴の実を吐く夢、講堂で催される劇、不思議な理科の課外授業、二人の少年…何が現実で、何が夢なのか?

ムック「長野まゆみー三日月少年の作り方」によると、『野ばら』執筆時期に様々なパターンで書かれており、『カンパネルラ』『銀木犀』『夏至祭』『綺羅星波止場』に収録の「銀色と黒蜜糖」は、『野ばら』の別バージョンとのことです(p.67)。

【登場人物】
月彦、黒蜜糖、銀色、理科教師

以下、ネタバレありで私的考察を…
個人的に感じたことなので、受け流してください。そして最終的にまとまってません(おい)。

琥珀縞の猫

祖父が飼っている琥珀縞の猫が、月彦の家の庭に登場します。
ミシンの周りに現れたことと、雰囲気的に理科の教師かな?と…

紅と白の対比

作中で目を引くのが、紅と白の色をした植物や物質です。
下記に列挙していきます。

・紅
柘榴、夏薔薇、雪の上の金魚、寒椿、黒蜜糖の唇、銀色たちの影
・白
野ばら、夜合樹(ねむのき)、芍薬、雪、銀色のシャツブラウス、理科教師の研究服

野”ばら”はひらがなで、夏”薔薇”は漢字なのも気になります。

紅色

上記の紅色をしたものを列挙して感じたことは、月彦が「怖い」と感じていることです。

死んだ金魚の紅色が目に焼き付き、痛みを感じています。それから、寒椿を見ると同じような痛みを感じ、柘榴を吐く夢を見るようになる。
金魚が死んでいるのを、月彦以外の級友は平気な顔で語っていますが、月彦は少なからずショックを受け、一種のトラウマになっているように読めます。柘榴=紅色を吐くようになるのは、目に焼き付いた金魚=紅色のトラウマから逃れたい、逃避行動のように感じます。

黒蜜糖の唇もまた紅色で、その黒蜜糖にも月彦は恐怖を覚えます。
ナイフを貸すと申し出た時も、刺されそうな気がして遠慮しています。

これらのことから、紅色は月彦のなかで「恐怖」・ある種「残虐性」と結びついているのではないでしょうか。

そんな紅色を、理科教師や黒蜜糖は「美しい」と形容します。
理科教師が紅玉の石を熱し「綺麗だろう」と言い、黒蜜糖も幕袖から「水より美しいもの」と柘榴を紹介しています。そしてどちらも、月彦に触れさせようとしてきます。

美しくも怖い世界へ、月彦を招き入れようとしている印象を受けます。

白色

対する白色は、野ばらに代表される学校と月彦の家の庭に生える植物が主です。紅とは対照的な色のように感じます。
野ばらの特徴は棘があること。そこに黒蜜糖や銀色たちは閉じ込められており、「月彦が野ばらを生やすせいで出られない」と言っています。

この野ばらの棘は、金魚のトラウマから心を守るための防御壁のようなものでしょうか。
心を守るため、自分の殻に閉じこもり夢の中にいたい月彦の、心の壁のようなもの。

黒蜜糖と消える月彦

いろいろ書きましたが、一貫した説明ができず(黒蜜糖と理科教師の発言をすべて説明できるわけではないので…)、取り急ぎ考えたことで着地させておきます。すみません。

最後には今まで吐いていた柘榴を飲み込み、恐れていた黒蜜糖を発見して安心感を覚えています。紅色に対する恐怖が無くなっているようです。月彦のなかで何かが覚醒したのか不穏な終わり方で、私は月彦があまりよくないものに目覚めてしまったと考えています。

ささみみささめ

いろんな方向性のお話を集めた短編集。
最後ゾッとするお話から、切ない話、ほっこりするお話まで。

以下、ネタバレあり

ささみみささめ

※名前なし
「ささみみささめ」で内緒話を始める家系の、祖父のお葬式。

ああ、どうしよう

愛美(まなみ):高級マンションのフロント係。
ミラノ:住人。
ナツミ:ミラノの友人。

ちらかしてるけど

ユカリ:ゼミの先輩。
近田:私の同じゼミの同級生。ユカリの夫。
R:ユカリの彼氏。デパート社員。
M:広告研で仲がよかった。

あしたは晴れる

知也(ともや):犬飼の言いなり。
犬飼:副社長。
→犬飼夫人だと思っていたのは、知也の父の姉。犬飼は知也の父を病院生活にした。

行ってらっしゃい

※信子の母のひとり語り

信子:娘。
日々登(かいと):信子の息子。

おかけになった番号は……

坂口:事務機器リースの営業マン
→坂口は老人で、妻だと思ってるのはヘルパーさん?

ママには、ないしょにしておくね!

川嶋:もうすぐ5歳になる娘がいる。
雪円(ゆきまど):自称パティシエの友人。

きみは、もう若くない

※亡くなった祖父を思い出す。

祐人(ゆうと):中学校を卒業した。

あなたにあげる

吉村:アパートの管理人。
松原/田中ハルヨ:ひとり暮らしだった老婦人。

ウチに来る?

※幼くして亡くなった弟を思い出す。似た子を連れて帰ろうとする。

名刺をください

一番(はじめ):偽名。
婆:名刺を集めるのが好き。
後藤京(けい)

一生のお願い

※バスの遅延で遅れて学校に来ると、屋上に見覚えのある傘が…

南々実(ななみ)
ともえ:友人
T:上級生

ヒントはもう云ったわ

※祖母が残した金の像を探す

エリカ
ユカワ:エリカの彼氏。

ありそうで、なさそうな

※老婦人の集まりで、J子の話を聞いていると、自分の話のように思えてきて…

佐登子(さとこ):女学校の教師をしていた。老後生活を送っている。
J子=じゅんじゅん

もう、うんざりだ

わたしに触らないで

レナ:影響力の強いクラスメイト。
ケンチ:乳歯が欠けている
シズナ/ズンちゃん:からだが大きく、運動があまり得意ではない。

ウチ、うるさくないですか?

美佐江
マリナ:孫。
ロミ:息子の妻。東洋系フランス美人
潮(うしお)/ウッシー:ピアノ講師の息子。

ドシラソファミレド

芙美恵(ふみえ):母が亡くなってから家事をしない父を施設にあずけ、独り暮らしをしている。

すべって転んで

小田/Qちゃん
ミッチ:小田が毎日一緒にいた同級生。
レイ

ここだけの話

※箱崎がむかし依頼された絵について。五歳で亡くなった娘が成長した姿を描いて欲しいと言われ、Aに依頼するが…

箱崎:美大予備校の教師。

スモモモモモ

李生(りお)
桃(もも):双子の姉
ルル:飼い犬

春をいただきます!

ハルヒコ:潔癖。綺麗好きを活かして住み込みの家事代行をしているが、行き過ぎて追い出されがち。
理奈:証券会社勤務。

最後尾はコチラです

秋山:むかし父と谷の家に住んでいた。

悪いけど、それやめてくれない?

小早川こずえ:テスト中に鉛筆を削るマイペース。
リョーコ:ソフトボール部。
チャロ、シホ:同級生。

こんどいつ来る?

奈々子:地元が一緒の隆人が帰ってくるのを待っている。
隆人(たかひと):

フランダースの帽子

嘘と本当が曖昧な、謎めいた短編集。
最後の一行ですべて覆される感じがたまらないです。

中井英夫さんの『とらんぶ譚』を読んでいるときの感覚に近いと個人的に思います。

以下ネタバレあり

ポンペイのとなり

実家に弟宛ての手紙が届き、姉が発見する。差出人は、学生の頃に同じ塾に通っていた男。

鈴木湖(みなと):塾で貴和姉弟と一緒だった。
伊布:湖の長女。
貴和(きわ):私。
弟:年子。中学卒業前に亡くなる。
ハルナ:貴和の塾の友達。
→本当は弟の方が「わたし」。

フランダースの帽子

色んな学校の生徒が集まる交流会に、双子かと思うほどよく似た姉妹がいた。

ミナ(エ):姉。
カナ(タ):2つ違いの妹。→実は弟。「私」のことが好き?
伊東リナ:ミナカナの従妹。ギャラリーのスタッフ
クレア:リナの母親。ベルギー人。ミナカナの伯父と結婚。
→カナタが絵を持っていた。リナが結婚祝いに譲り受ける。

シャンゼリゼで

モモコが開く読書会で、不思議な講義が始まる。
モモコは「母々子」と書くが、母が二人いるからだそうだ…

モモコ(母々子):雑貨店と読書会を営む。
ウカミユリヒコ(芋神ゆり彦):『かみのふね』を書いた詩人。弟。
ウカミマリヒコ(芋神まり妃子):円まり妃(まりい)という画家。姉。
パリス:モモコの家にいる猫。
→語り手はゆり彦?ゆり彦は好きな人(義兄)をまり妃子に奪われたため、子作りを強行。

カイロ待ち

夫婦で新しい家に一目ぼれし、DIYで改装して引っ越すことに。
しかし、隣人たちが変わっていて…

カイロ:猫。
枝光(えだみつ):家族構成が不明な隣人。
ハナ:妹。
サラ:姉。

ノヴァスコシアの雲

新しい勤務先へ向かう途中には、「雲の事務所」という表札を掲げ、老婦人たちが集う邸宅があった。

沢村賢治:ユニバーサルフードの会社で働く。
鈴木一彦:賢治が拾った猫の元飼い主を名乗る。→モデルのKenji。賢治に気がある?
ケネス・シマノ、アラン・シマノ:日系カナダ人の兄弟。
建芳一(たてよしかず):カナダへ渡り着いた気象台職員。孫はカズキ。
ゆりあ、ぺむぺる:猫。
古市:管理人

伊皿子の犬とパンと種

遠田浩紀は、海外でダイビング中に意識を失い救出されたが、記憶を失くしていた。
病院には、浩紀と深い関係だったという老婦人たちが連日訪れる。
浩紀はどんな人間関係を築いていたのか…

遠田浩紀(おんだひろき)
マルト:遠田の妻。
珠洲子(すずこ):仮名。遠田の中学の時の教師だという。
カグー:遠田の飼い犬。
立縫和泉(たてぬいいずみ):遠田が犬を預けたパン職人。

名なしの森

名なしの森

主人公の章は、中学二年生にして倒錯した考え方が身に付き、生きにくさを感じていた。
そんな章は、同じ塾に通う一つ上の先輩・宮沢に憧れ、話したいとずっと思っていた。
宮沢は成績優秀だが友人を作らず、医者の息子であり180cm以上ある体を持て余していたが、意外にも読書家であることを章は知り、話してみたいと感じたからだ。

夏休みに宮沢と汽車で一緒になり、話す機会が訪れる。
「今度、お前を”おれたちの村”へ連れていってやる」と宮沢は言う。
そこは少年少女が独自の国家を形成した、秘密結社のような集団で…

二人の関係性が危うく、とても素晴らしいです…!!

変身譜

貞子は、今やシャンソン評論家として憧れの的である千晶の顧問的存在である。
最近、千晶に纏わりつく一人の老女がおり、千晶から「私の代わりに、辞めるように説得してほしい」と貞子は頼まれる。
貞子は女と二人で話をしてみると、女は「千晶のせいで女に目覚めてしまった」と言って…
レズビアンのお話です。

干からびた犯罪

四十年前に亡くなった、かつての恋人の死の真相を探しに、多佳子は田端を訪れる。
そこで旧い友人の好子と、その仲間に偶然出会い、お茶会に誘われる。

実はルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を模した奇妙なお茶会で、仲間の一人は霊媒師であるという。
霊媒師はかつての多佳子の恋人の霊をおろし、多佳子の名を呼び、死の真相を語り始める…

盲目の薔薇

独り暮らしの女の家には、たくさんの薔薇が植えられている。
だが、今年は蕾が開かない。

ある日女の家にやって来た研ぎ屋の青年は、園芸が専門だというので、薔薇を診てもらうことに。
女は薔薇の心配もしていたが、青年を何とか引き止めたいと、今後も来て欲しいと頼む。
青年との交わりの中で、女は自分がなぜ独りでここにいるかを思い出す。

青年が…めちゃくちゃいいです…

一粒の葡萄もし…

食べるとセックスに関することだけ、他人の感情が読み取れる葡萄。
それを食べた女性二人の巡りあわせのお話。

花火闇

真奈は仕事仲間の澄人と、架空の男女を造り遊んでいた。
真奈にはまた、『甘美な姉』と自分に熱い視線を送る叔父の存在があった…

関係性がもつれあう、お耽美なお話です。レズ描写あり。

あるふぁべてぃっく

資産家で年を取ってきた伯母が、親族を集める。
親族たちは、遺産相続についてそれぞれ思惑を持っており…

男色家の朝の歌

主人公は、自分の意思と関係なく体や時間を行ったり来たりしてしまう、特殊な能力を持っている。
長野さんの「あめふらし」的な雰囲気です。

男色家の切ない感情が、読んでいて悲しかったです…